疾患について IgE検査の重要性

専門医に聞く 喘息コントロールの見極め方
患者こそ自分の喘息を悪化させる
‘‘原因アレルゲン’’を知りたがっている

監修: 国立病院機構相模原病院 臨床研究センター長 谷口 正実 先生
      国立病院機構相模原病院 臨床研究センター 診断・治療薬開発研究室長 福冨 友馬 先生
 

Summary

  • 原因アレルゲンの同定と回避指導はⅠ型アレルギー診療の基本。
    同定のための検査はそれを知りたがっている患者の満足度を上げる
  • 吸入性アレルゲンに関しては、血液抗原特異的IgE抗体価検査の感度は良好
  • 種類が多く、地域差や交差反応性のあるアレルゲンも、
    「気道アレルギースクリーニングパネル」を使えば、
    感作率の高いアレルゲン、感作率は高くなくても重症化、
    大発作の可能性のあるアレルゲンを効率よく、見落としなく同定可能
  • 「IgE抗体陽性」≠「臨床的アレルギー」
    病歴、臨床症状を考慮した判断が必要
  • 患者への説明のプロセスを含めて“検査”
    患者には、検査結果だけでなく、感作アレルゲンの臨床的意義、回避法を含めて説明することが大事

 

 

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アレルゲンの同定がないまま漫然と治療すると、思わぬ結果を招くことも

経気道的なアレルゲン感作ルートは、環境中のアレルゲンへのヒトの最も代表的な感作様式であり、吸入性アレルゲンへの曝露と感作は喘息の発症・重症化の危険因子です。ところがアトピー素因の評価や感作アレルゲンの同定がないまま治療されているケースも少なくなく、喘息の重症化・難治化の一因となっています。例えば、ペットアレルギーがあるのにペットを飼い続ければ、喘息は確実に悪くなります。環境真菌の1つであるアルテルナリアは重症喘息や喘息死患者、発作入院患者で感作率が高いことが知られています。またアスペルギルスは下気道で腐生・増殖しやすく、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)を発症したり、ABPAを発症しなくても喘息が重症化する、いわゆる真菌感作重症喘息(SAFS)を引き起こしたりすることが注目されています。投薬してもコントロールできない難治性の喘息の原因として、持続的なアレルゲンの曝露は今でもあります。

原因アレルゲンの同定は患者も望んでいる
 

なぜ自分の喘息が悪いのか、それを一番知りたがっているのは患者です。肥満のせいなのか、副鼻腔炎のせいなのか、アトピー素因があり感作アレルゲンによるものなのか?喘息で苦しんでいる多くの患者が検査を希望しています。増悪因子の1つとして感作アレルゲンの同定は常にしていく必要があります。

もしペットアレルゲンが原因であることがわかっていれば、ペットを手放したり、たとえ手放せなくても一緒に布団で寝ないようにしたり対策を立てることができます。原因アレルゲンの同定と回避は最も重要です。患者が知りたがっている増悪因子の一番重要なポイントをポンと提示し、的確な対策を立てていく。そうすれば患者の満足度も上がり、病気も改善に向かいます。それが臨床医の仕事だと思います。

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感作アレルゲンの評価は、初診時だけでなく増悪時にも

吸入性アレルゲンは多岐にわたり、通年性アレルゲンのダニ、ペット、真菌、昆虫、季節性アレルゲンの花粉などがあります。喘息初診時だけでなく、増悪時にも臨床亜型の同定と難治性因子の検索とともに、Ⅰ型アレルギーの基本であるアトピー素因の有無、感作アレルゲンの評価と病歴聴取を行い、臨床的な原因アレルゲンを再度評価します。

感作アレルゲンの評価法には、皮膚テストと血液抗原特異的IgE抗体価検査(以下、血液IgE検査)があります。吸入性アレルゲンに対しては血液IgE検査の感度は高く、簡便さと普及状況を考慮すると、血液IgE検査を優先してよいと思います。ただ特殊な職業性アレルゲンや通常の血液検査では評価できないアレルゲンが疑われる場合などには皮膚テストが必要になります。

血液IgE検査は、通常は初診時に行いますが、症状が悪化した場合には再度行うことを考慮します。患者は悪化のときもその原因を知りたがりますし、新しいアレルゲンに感作された可能性や、症状を起こさなくても感作アレルゲンの持続曝露が慢性炎症に寄与し、増悪因子となっていることがあるためです。重症喘息ではアスペルギルスに新規に感作が起こることがあるため、少なくとも年に1回は検査をしていたほうが無難です。

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「気道アレルギースクリーニングパネル(13項目)」は、感作率の高いアレルゲン、感作率は高くなくても重症化・大発作の可能性のある重要なアレルゲンをカバー

血液IgE検査には、約200項目から検査項目を選ぶ単項目測定、数十の項目がセットされた多項目測定がありますが、どの項目を検査すべきかについては標準化されていません。そこで、国内のアレルゲン感作率などのエビデンスに基づいて作成されたのが、「気道アレルギースクリーニングパネル」です。

アレルゲン感作率の地域差、アレルゲンの交差反応性を考慮して検査項目を選定しました。

交差反応性とは、異なるアレルゲンの蛋白質に共通の構造をしたエピトープが存在するため、特異的IgE抗体が両者に結合して起こる反応です。交差反応性を考慮すれば、検査項目を絞り込むことができます。

表に示すように、全国統一としてスクリーニングパネル13項目を抽出しました。このパネルを使用すれば、アレルギー非専門医でも、効率よく、さらに感作率は高くないものの、重症化・大発作を誘引するなど臨床的に意義のあるアレルゲンを見落としなく同定することが可能になると期待されます。

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「IgE抗体陽性」≠「臨床的アレルギー」
病歴や臨床症状を考慮した判断が必要

ただし注意が必要なのは、アレルギー診療ではあくまで臨床症状が優先されるということです。

血液IgE検査の陽性は、その抗原に対してIgE抗体を有している(=感作されている)ことを示していますが、臨床症状の発現を意味しているわけではありません。臨床的アレルギーの診断は、病歴や負荷試験の結果を合わせて行われなければなりません。

検査陽性でも負荷試験や病歴聴取により臨床症状が認められなければ、アレルギーではないと解釈すべきです。一方、検査陰性でも負荷試験や病歴聴取で臨床症状が認められれば、非IgE機序による症状の可能性が考えられたり、より感度の高いプリックテスト(SPT)やアレルゲンコンポーネントなどによるIgE検査の見直しを検討したりする必要があります。

検査陽性項目に対してはアレルゲンの臨床的意義を踏まえて対応

検査陽性項目には、そのアレルゲンの臨床的意義を考慮した対応が重要です。図2に示すように、ヤケヒョウヒダニもしくはコナヒョウヒダニは、喘息患者の小児では80%以上、成人でも50%以上が感作されており1)、最も重要な吸入性アレルゲンです。ただ回避方法が確立されており、回避法を患者に十分に説明する必要があります。

ペットアレルゲンは空気中に高濃度で浮遊し、患者個人の飼育状況のみならず居住地域の飼育状況も問題となります。大発作のリスクがあり、友人宅へ行ったときなどの発作リスクに留意する必要があります。

花粉で留意すべき点は交差反応性です。ある花粉が陽性でも、他の花粉との交差抗原性のために陽性となっているだけで臨床的意義が大きくない場合があります。花粉の飛散時期と症状が一致しているかを確認する必要があります。

また、カバノキ科花粉やイネ科花粉では、食物摂取時にアレルギー症状を来す花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)が起こることがあるので注意が必要です。

真菌では、アスペルギルスIgE陽性ならABPAの検索が必要です。ABPAを発症していなくても難治化因子である点に注意する必要があります。

アルテルナリアIgE陽性では、梅雨時期に喘息症状を悪化させることが知られています。

1)谷口正実, 福冨友馬 監修, 吸入性アレルゲンの同定と対策, メディカルレビュー社, 東京, 2014; p9

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喘息を診る先生方へのメッセージ

 

  • なぜ自分の喘息が悪いのか、患者はそれを一番知りたがっています。
    増悪因子の1つとして、感作アレルゲンの同定が必要で、患者もそれを望んでいます。
     
  • 原因アレルゲンが明らかになれば、例えば、花粉曝露により増悪する喘息患者においては、花粉飛散期には花粉の回避や治療を集中して行うなど、患者自身が目的意識をもって治療に取り組むことができ、患者の満足度も上がります。
     
  • 患者には検査結果だけでなく、感作アレルゲンの臨床的意義、回避法を含めて説明することが大事です。検査には費用がかかりますが、検査の意義をしっかり伝え、検査結果に説明を加えれば、コストパフォーマンスの悪い検査だと思われることはありません。
     
  • 増悪時には、新たなアレルゲンに感作された可能性や、症状を起こさなくても感作アレルゲンが慢性炎症に寄与し、増悪因子となっている可能性もあるため、再度検査し原因アレルゲンを再評価することも考慮します。