食塩と高血圧

わが国の高血圧有病者は4,300万人、そのうち約7割が血圧管理不良と推定されており1)
日本人の高血圧の特徴として、食塩摂取量の多さや食塩感受性が挙げられています1, 2)

※:140/90mmHg以上

1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019, p.7-10, ライフサイエンス出版, 2019
2)Kario K, et al.: Hypertension. 2018; 71: 375-382

Na貯留と夜間高血圧

夜間の血圧低下の減弱(non-dipper)は、圧-利尿の作用によって体内に貯留したNaを排泄するための代償機構1)
本来なら低下する夜間の血圧を高いまま保つことによって、日中に排泄しきれなかったNaを夜間に排泄2)

食塩過剰摂取による夜間高血圧の持続

Image
products_entresto_high_blood_pressure_salt_ht_img_eht_salt-eht_01.png

a)木村玄次郎: 日腎会誌 2008; 50(1): 16-20
b)安藤大作ほか: 日腎会誌 2009; 51(4): 428-432
c)Bigazzi R, et al.: Hypertension. 1994; 23(2): 195-199
d)Bianchi S, et al.: Am J Hypertens. 1994; 7(1): 23-29
e)Ingelsson E, et al.: JAMA. 2006; 295(24): 2859-2866
f)Kario K, et al.: Hypertension. 2019; 73: 1240-1248
1)福田道雄:Nagoya Med J. 2013; 53: 123-134
2)宇津 貴:Prog Med 2012; 32: 1025-1028

日本人と白人の食塩感受性遺伝子

日本人は白人に比べ、食塩感受性に関連した遺伝子多型の頻度が有意に高く1)
血圧上昇に対して食塩摂取の影響を受けやすい可能性があります2)

食塩感受性に関連した遺伝子多型の頻度1)

Image
products_entresto_high_blood_pressure_salt_ht_img_eht_salt-eht_02.png

対象・方法:    高血圧患者および一般集団を対象に各種の対立遺伝子を検討した研究報告をもとに、食塩感受性に関連した遺伝子多型について日本人と白人における頻度を解析した。

1)Katsuya T, et al.: Hypertens Res. 2003; 26, 521-525より作図
2)Kario K, et al.: Hypertension. 2018; 71: 375-382

令和元年国民健康・栄養調査
地域ブロック別の食塩摂取量

厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査1)によると、20歳以上の食塩摂取量の全国平均は10.1g/日で、最も少ない地域でも、日本人の食事摂取基準(2020年版)が定める男性7.5g/日、女性6.5g/日未満という成人の目標量2)には及びません。
高血圧患者さんでの目標はさらに低い6g/日であり3)、減塩は依然として日本人の課題と言えそうです。

Image
products_entresto_high_blood_pressure_salt_ht_img_eht_salt-eht_03.png

※地域ブロックの内訳:北海道(北海道)、東北(青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県)、関東Ⅰ(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、関東Ⅱ(茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県)、北陸(新潟県、富山県、 石川県、福井県)、東海(岐阜県、愛知県、三重県、静岡県)、近畿Ⅰ(京都府、大阪府、兵庫県)、近畿Ⅱ(奈良県、和歌山県、滋賀県)、中国(鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県)、四国(徳島県、 香川県、愛媛県、高知県)、北九州(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県)、南九州(熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県)

1)厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査 第1部 栄養素等摂取状況調査の結果」より作成
2)厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019, p.64, ライフサイエンス出版, 2019

「食塩感受性」は「食塩摂取に伴い血圧が変動すること」と定義され、個人差があることが知られています

Image
products_entresto_high_blood_pressure_salt_ht_img_eht_salt-eht_04.png

対 象:    腎障害、心不全、肝障害がなく、4時間ごと6日間の血圧測定で2/3の測定値が>140/90mmHgを示した本態性高血圧患者19例
方 法:    Na含有量9mEqの食事を低塩食、低塩食にNa 100mEqを加えた食事を普通食、低塩食にNa 240mEqを加えた食事を高塩食とし、被験者に1週間ずつ、普通食、低塩食、高塩食の順に摂取させた。低塩食から高塩食に切り替えたときの平均血圧が、低塩食摂取時の平均血圧 から10%以上上昇した人を食塩感受性高血圧、上昇が10%未満だった人を食塩抵抗性高血圧として、血漿Na濃度やアルドステロン濃度等を比較した。

上島弘嗣.ドクターうえしまの塩切り奮闘記.ライフサイエンス出版, 2021を参考に作成