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日本人の食塩摂取量は依然として多く、減塩は国民の血圧水準を低下させるためにも、高血圧患者の血圧管理のためにも必要とされています。しかし、塩味に馴染んだ日本人にとって、減塩目標とされる「食塩6g/日未満」1)を達成するのは容易ではありません。
減塩啓発活動に精力的に取り組まれ、日本高血圧学会減塩・栄養委員会委員も務めておられる日下美穂先生に、減塩の動機付けや患者さんの食塩摂取量を意識した降圧療法についてお話を伺いました。

“Salt-Conscious”が減塩行動につながる

塩と血圧は切っても切れない関係があり、食塩の過剰摂取は血圧を上昇させ、血管を傷害して脳や心臓、腎臓などに合併症を引き起こします2)
2011年の国連のNon-Communicable Diseases(NCDs:非感染性疾患)に関する高次元会議では、NCDsによる死亡率を低下させるために取るべき行動の優先順位が示され、1に禁煙、2に減塩が挙げられました3)。またわが国でも、厚生労働省は減塩に対するより一層の取り組みが必要であるとし、2024年度から開始される「健康日本21(第三次)」において、1日あたりの食塩摂取量の目標が第二次の8g未満から「20歳以上の男女7.0g未満」に引き下げられました4)
このように、食塩の過剰摂取が健康に及ぼす影響と減塩の重要性は広く認識されるようになりました。一方で、「減塩」という言葉にはマイナスのイメージが無きにしもあらずだと思います。健康に良いものを摂取するという行動にはポジティブなイメージがありますが、“良くないものを減らす”という行動には“難しい”というイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、例えば自分が口にする食品にどれくらいの食塩が入っているのか?ということを意識の片隅に置き、パッケージの栄養成分表を見て食塩の量を確認するというだけでも減塩への第一歩です。完璧にはできなくても、「意識することの大切さ」を知っていただくために、“Salt-Conscious(塩を意識)”という言葉を考案し、啓発活動を行っています。

減塩しやすい社会へ

日常診療や啓発活動を行っていると、日本人の減塩に対する意識は昔に比べて高まっていると感じます。しかし、それでもなお十分と言えるレベルまで減塩が進まないのは、個人の努力に頼るだけでは限界があるからです。
味覚は幼少期に形成されると言われますが、多くの日本人は塩味のきいた家庭料理を食べ、その味をおいしいとインプットされながら育ちます。そのため、大人になってからの食生活が塩分過剰でも自覚するのは難しく、気づきを促すには「食塩摂取量の見える化」が必要です。また、子供の頃から塩分が少ない食事に慣れるようにする「食育」も重要な課題です。さらには、加工食品の減塩化を進めるなど、誰もが自然に減塩できるように、医療従事者、行政、教育現場、産業などが一体となって「減塩しやすい社会」を作らなければならないと思います。

患者さんの食塩摂取量を意識した降圧療法

前述の「食塩摂取量の見える化」は、スポット尿(随時尿)のナトリウム濃度とクレアチニン濃度から1日の食塩摂取量を推定することができます5)。日本高血圧学会は食塩摂取量を自動計算できるwebページ※1を作成しましたのでご利用ください。高血圧治療においても、自分が食べている食塩の量を知ると患者さんの意識が変わるため、減塩の動機付けに役立ちます。しかし、食塩の摂取状況が把握できないときでも、日本人の食生活を考えると食塩を意識することは重要です。
私の場合、降圧薬はレニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬から始めることが多いのですが、減塩ができているかどうかでRA系阻害薬に対する反応が異なります。これは、食塩摂取量が増加するとRA系は抑制されますが、反対に減塩するとRA系が亢進し、RA系阻害薬への反応が高まるためと考えられます6)
アンジオテンシンⅡ受容体阻害とネプリライシン阻害を併せもつエンレストは(図)、後者によるナトリウム利尿作用により、減塩下でARBを服用するのと同じような状態をもたらすと考えられ、RA系阻害薬単剤で降圧目標に届かないときに、次の一手として最初に考えてもよい薬剤だと思います。

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エンレストの特徴を活かした使い方

日本人はおしなべて食塩過剰摂取であることを考慮すると、RA系阻害薬以外の降圧薬から開始した場合でも、エンレストは2剤目の選択肢になると考えられます。
また、エンレストは国内第Ⅲ相臨床試験7,8)において24時間にわたる良好な降圧が認められており、その成績と作用機序から、夜間高血圧に有効性が期待できます。日常診療で24時間の血圧を測定するのは難しいですが、実臨床では夜間の頻尿や不眠の症状を訴える患者さんは夜間高血圧であることが多いことから、エンレストを試みるのもよいと思います。
高血圧治療においてエンレストは、「原則として第一選択薬としないこと」とされていますが、エンレストは慢性心不全※2の治療薬でもあることから、心疾患合併例の降圧療法では第一選択薬としての使用を考慮し得るとされています。心不全という視点から見れば高血圧は心不全ステージAであり、いわば心不全の入口に立っていると言えます。

※2:エンレスト錠50mg・100mg・200mgの効能又は効果:慢性心不全。ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。

医師自身のために、患者さんのために―エンレストへの期待

日本高血圧学会の『高血圧治療ガイドライン2019』では、「ガイドラインで示されている降圧達成目標値よりも高いにもかかわらず治療を強化せず、そのまま様子を見ること」を意味する「臨床イナーシャ」の問題が指摘されました9)。実臨床では、患者さんの状態に合わせて降圧薬を駆使しても、なかなか降圧目標に達しないということもあります。しかし、降圧目標達成に対する意識の乏しさから、目標未達にもかかわらず治療強化には踏み込まず、何となく同じ降圧薬を続けていたり、あるいは、患者さんのアドヒアランス低下を憂慮して、単剤で目標達成は厳しいのに降圧薬を増やすことに二の足を踏んでしまうなど、臨床イナーシャをもたらす要因は様々です。ただ、ここに挙げたような「医師サイドの要因」に思い当たるときは、従来の降圧薬とは異なる作用機序のエンレストを検討していただきたいと思います。
高血圧患者さんは治療によって血圧が下がった実感があると喜びます。これまでの使用経験から、エンレストは医師自身が臨床イナーシャから抜け出すためにも、高血圧患者さんの期待に応えるためにも、活用の機会が多い降圧薬と感じています。

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1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編): 高血圧治療ガイドライン2019, p.64, ライフサイエンス出版, 2019
2)He FJ, et al.: J Am Coll Cardiol. 2020; 75(6): 632-647
3)Beaglehole R, et al.: Lancet. 2011; 377(9775): 1438-1447
4)厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会, 他: 健康日本21(第三次)推進のための説明資料, 2023 (https://www.mhlw.go.jp/content/001102731.pdf)
5)Tanaka T, et al.: J Hum Hypertens. 2002; 16(2): 97-103
6)伊藤貞嘉: 血圧 2006; 13(12): 1304-1307
7)社内資料: 日本人高血圧患者におけるエンレストのオルメサルタンに対する優越性検証試験(国内第Ⅲ相試験、A1306試験)[承認時評価資料]
8)Rakugi H, et al.: Hypertens Res. 2022; 45(5): 824-833
[利益相反]本研究はノバルティスから資金提供を受けました。著者のうち4名はノバルティスの社員です。その他にノバルティスからコンサルティング料、講演料等の報酬を受領した著者が含まれます。
9)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編): 高血圧治療ガイドライン2019, p.203, ライフサイエンス出版, 2019

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