アフィニトール 結節性硬化症(TSC)
監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授) |
てんかん
発現時期
てんかんは、その重症度によって結節性硬化症患者のQOLを大きく左右する重要な症状の一つです。結節性硬化症患者の84%がてんかんを随伴しており、てんかん発作は結節性硬化症患者の92%の初発症状である1)ため、初診時の主症状および診断の根拠となることが多い症状とされています2)(図1、図2)。
結節性硬化症患者のてんかんの約7割は2歳以下で発見され、てんかん発作の中でも頻度の高い部分発作は1歳(中央値)で診断されています3)。
日本人結節性硬化症患者におけるてんかんの発現頻度
2013年に報告された、日本人結節性硬化症患者166人を対象とした疫学調査4)によると、てんかん*1の発現頻度は63%、このうち難治性てんかん*2は20%で、既報にくらべいずれも有意に低頻度でした(*1:p=0.0005、*2:p<0.0001、χ2検定)。年齢期別にみると、てんかん*3、難治性てんかん*4のいずれも年齢とともに発現頻度が有意に低下しました(図3)(*3:p=0.0006、*4:p=0.004、χ2検定、図4)。また、男性(54人、77%)は女性(51人、53%)にくらべ有意に発現頻度が高いことが示されました(男性p=0.0159、女性p=0.0395、χ2検定)。
病態・症状
乳児期は点頭てんかん(West症候群)が多く、Lennox-Gastaut症候群へと変化することも多いとされています。一般に、4歳以下で高頻度に全般てんかん発作を認めた場合、あるいは薬剤抵抗性の場合やWest症候群では、精神遅滞を伴う確率が高いといわれています。 精神遅滞については、こちらをご覧ください。
TSC1遺伝子変異をもつ症例にくらべて、TSC2遺伝子変異をもつ症例でてんかんを伴う割合が有意に高いと報告されています(p=0.02、t検定)5) 6)。
てんかん発作の種類は多彩で、大多数は症候性の局在関連てんかん(部分てんかん)と、全般てんかんです。小児の3分の2に点頭てんかんが認められています。
また、結節性硬化症に伴う脳病変(大脳皮質結節、SEN、SEGAを含む)はCTやMRIで観察されます。結節性硬化症のてんかん原性焦点は、大脳皮質結節と考えられており7)、皮質結節の個数の多さ(7個以上)は、点頭てんかんや重篤なてんかんの発症と相関することが示唆されています。特に、結節を伴い早期発症した場合や発作間欠時にてんかん発射(てんかん波、てんかん放電)がみられる場合は、認知機能障害が著しく悪化したり、自閉症や行動障害、てんかん性脳症をきたすことがあります。てんかん発作の発症年齢とともに、側頭葉での皮質結節の存在が、結節性硬化症に行動障害や認知機能障害が合併する一因になると考えられています。
なお、SEGAは、必ずしもてんかんを引き起こすわけではありませんが、SEGAの二次症状である水頭症が、既存のてんかん発作を悪化させる可能性があります18)。
結節性硬化症に伴うてんかんは特に重篤で、7割は抗てんかん薬によっても発作が抑制されない薬剤抵抗性てんかんへと移行し3)8)9)、外科的切除後の発作消失率も1年後は60~70%ですが、最終的には50%前後に低下するとされています10)11)。 てんかん重積発作は生命予後にかかわり、てんかん発作を死因とする死亡はほとんどが幼児期から40歳未満となっています12)(図4)。
難治性てんかん、自閉症スペクトラムと精神遅滞の関係
前述の日本人結節性硬化症患者166人の疫学調査4)によると、精神遅滞の重症度が高いほど、難治性てんかんと自閉症を有する割合が高く、有意な相関が示されました(p<0.001、χ2検定、一般化ロジスティックモデル)(図5)。
検査・診断
てんかんの検査には、脳波検査(通常脳波検査や長時間ビデオ脳波モニタリング検査)や、CT,MRIなどの脳形態画像検査が用いられます。脳波検査は、結節性硬化症の小児において、てんかん発症のリスクを予測し、無症候性てんかんを検出するバイオマーカーとして有用である可能性があるとされています13)。外科的治療を検討する際は、術前評価として、核医学検査(FDG-PET、脳血流SPECT)や脳磁図にMRIを組み合わせた検査により、てんかん焦点を同定していきます14)。病態評価の補助的検査としても核医学検査や脳磁図が行われます。
治療
結節性硬化症に伴うてんかんの治療目標は、できるだけ早い段階で診断し、二次的な精神遅滞に至らないように、発作を良好にコントロールすることにより、生活の質を向上させることです。結節性硬化症患者の治療フォローにあたっては、小児神経科医と連携して取り組むことが大切です。
てんかん発作の治療には、抗てんかん薬、ACTH(adrenocorticotropic hormone)、hydrocortisone*が用いられます。ビガバトリンも臨床使用可能で、海外では1歳以下の部分発作の初期治療として推奨されていますが、投与中に視野狭窄が9〜63%増加することが報告されています15)。日本においても、投与を受けた患者の約 1/3 で不可逆的な視野狭窄が報告されており、眼科専門医との連携が可能な処方登録医療機関でのみ使用が可能となっています16)。(*てんかん治療については本邦未承認)
2種類の抗てんかん薬で効果の得られない薬剤抵抗性の症例には、核医学検査(FDG-PET、脳血流SPECT)や脳磁図にMRIを組み合わせた検査により、てんかん焦点を同定し、外科的切除やガンマナイフによる治療が行われます。 早期の外科的介入は発作抑制効果が期待されますが、術後約40%の患者で発作が残存したとする報告もあります13)。
薬剤抵抗性かつ外科的治療の適応にならない場合、あるいは外科的治療の効果が不十分だった場合、2歳以上を対象に緩和的治療として迷走神経刺激法が選択肢に入ります14)。
また、結節性硬化症に伴うてんかん部分発作に対してアフィニトール®(一般名 エベロリムス)の有効性も示されており17)、2019年8月より承認事項一部変更承認を取得して臨床使用可能となりました。アフィニトール®のてんかん部分発作に対する有効性・安全性については、こちらをご覧ください。
その他には、ケトン食などの食事療法が行われることがあります。
参考文献
1) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2008; 118: 1667-1676
2) Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668
3)Kingswood JC, et al. Orphanet Rare Dis 2017; 12:2
4) Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910
5) 大野耕策. 日小児会誌 2002; 106: 1556-1565
6) Dabora SL, et al. Am J Hum Genet 2001; 68: 64-80
7) Nabbout R, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1999; 66: 370-375
8)Crino PB, et al. N Eng J Med 355 2006;1345-1356
9)Curatolo P, et al. Lancet 2008;372(9639):657-668
10)Ataya R, et al. J Neurosurg Pediatr 2015;15:26-33
11)Liang S, et al. J Neurol 2017;264:1146-1154
12) Shepherd CW,et al. Mayo Clin Proc 1991;66: 792-796
13) Curatolo P, et al: Eur J Paediatr Neurol 2018; 22: 738-748
14)川合 謙介, 他. てんかん研究 2012;30:68-72
15) Riikonen R, et al. Dev Med Child Neurol 2015 ; 57: 60-67
16) ビガバトリン製剤の使⽤に当たっての留意事項について. 厚⽣労働省通知(平成28年3⽉28 ⽇)
17) French JA, et al: Lancet 2016; 388: 2153-2163
18)結節性硬化症の診断と治療最前線.⽇本結節性硬化症学会編.診断と治療社、2016