アフィニトール 結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

その他の腎病変(腎嚢胞、多発性嚢胞腎、腎細胞癌)

結節性硬化症に伴う腎病変の種類

結節性硬化症に伴う腎の病変としては、様々なタイプの病変が報告されており、腎血管筋脂肪腫(腎AML)、腎嚢胞、多発性嚢胞腎、腎細胞癌があります。

疫学と発現時期

腎細胞癌は20~30歳代の結節性硬化症患者の2~4%に発現するといわれ、腎嚢胞は年齢に関係なく20~50%に発現するといわれています1)
2013年に報告された、日本人結節性硬化症患者166人を対象とした疫学調査2)によると、腎病変を有する割合は全体(図12)で71%と、既報と同程度の発現率でした。また、腎嚢胞の発現頻度は28%でした。腎AMLで報告されている、思春期に急速に大きくなるという特徴とは異なり、腎嚢胞の初発時期は小児期で、どの年齢期においてもほぼ同じ頻度で発現していました(図2)。

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腎病変別の病態・診断・治療

結節性硬化症に伴う腎病変は腎AMLが最も多く認められますが、ここでは、それ以外で結節性硬化症に特徴的に認められる腎嚢胞、多発性嚢胞腎、腎細胞癌について紹介します。腎AMLについては、こちらをご覧ください。

1.腎嚢胞(renal cyst) (図3)

結節性硬化症では、1つあるいは多発性の腎嚢胞が認められることがあります。
通常は無症候性ですが、腫瘤が大きくなると腎機能障害や高血圧の原因になることがあります。

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2.多発性嚢胞腎(図4)

多発性嚢胞腎は、腎嚢胞の重度の表現型で予後が悪く、結節性硬化症の診断に用いられる基準の小症状の一つに挙げられています3)。 診断基準の詳細はこちらよりご覧下さい。
両側の腎臓に嚢胞が無数に生じる遺伝性疾患で、PKD1(polycystic kidney disease type1)遺伝子の関与も考えられています4) 5)。 PKD1遺伝子は、TSC2遺伝子と近接して存在するため同時に欠失することがあり、その場合、結節性硬化症の症状に加え、乳児期から早発性の多発性嚢胞腎が発現することや多発性嚢胞腎の合併症である肝嚢胞性病変や動脈瘤などが起こることがあり、注意を要します。初期のうちは無症状ですが、腎嚢胞の腎腫大による腰痛、高血圧、腹部膨満感などが現れます。自覚症状の出現は40歳代くらいが最も多いといわれています。診断は家族歴の聴取と画像による両側の腎嚢胞の数の検査で、CT、MRIが推奨されています6)『多発性嚢胞腎診療ガイドライン2020年版』7)によると、進行を抑制する治療として降圧療法、飲水食事、トルバプタンがあり、局所疾患に対する解説も含まれます。
また、嚢胞の進行性肥大が腎実質を圧迫して、腎不全に至り透析治療や腎移植が必要になる場合もあります。

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3.腎細胞癌(renal cell cancer: RCC) (図5)

結節性硬化症に伴う腎病変は、多くの場合は無症状で良性腫瘍ですが、時に腫瘍の増大に伴い、その一部より腎細胞癌が発現することがあります。多くは腎AMLと混在し、両側性、多発性に発現します。
日本泌尿器科学会『腎癌診療ガイドライン2017年版』8)によると、遠隔転移のない腎細胞癌には原則として外科的切除が適用されます。その他、薬物療法(分子標的薬、免疫療法)、放射線療法が行われます。

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参考文献
1) 結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫診療ガイドライン 2016年版; 日本泌尿器科学会 日本結節性硬化症学会 編. 2016: p.5
2) Wataya-Kaneda M, et al. PLoS ONE 2013; 8: e63910
3) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243–254
4) Umeoka S, et al. Radiographics 2008; 28: e32
5) Cheadle JP, et al. Hum Genet 2000; 107: 97-114
6)結節性硬化症の診断と治療最前線.日本結節性硬化症学会編.診断と治療社、2016
7) エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2020. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「難治性腎障害に関する調査研究」班 編. 2020
8) 日本泌尿器科学会 編. 腎癌診療ガイドライン2017年版, メディカルレビュー社

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