アフィニトール 結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

欧州の結節性硬化症患者におけるてんかんの治療の提言1)

2012年3月に欧州専門家らにより結節性硬化症に伴うてんかん治療に対する提言が発表されました2)。その後、結節性硬化症に伴うてんかんの発症前診断や予防的治療、新規治療に関する知見も含め、あらたな研究や報告が相次いだことから、2018年12月に最新の提言が発表されました(1)
てんかんは、結節性硬化症患者の84%に認められ3)、乳児期に多い点頭てんかんでは8割近くが治療抵抗性のてんかんへと進展します。結節性硬化症患者のてんかんの約7割は2歳以下で発見されるため4)、できる限り早期に診断して、てんかん発作を予防あるいはコントロールすることで、患者の二次的な精神遅滞を改善し、QOLを向上させることが治療目標となります。
治療介入のタイミングについて、てんかん発作が認められないうちに予防的に治療をおこなうことに関する十分なエビデンスはありませんが、てんかん発作の有無にかかわらず、乳幼児期に脳波検査でてんかん性の異常波が認められた場合には、治療を開始することが推奨されています。 また、てんかん発作の抑制のため、脳波所見の認められた乳児にビガバトリンの予防的投与を行うことが有用とする試験結果も報告されています5)。治療においては、できるだけ速やかな専門医(小児神経科、神経内科、精神神経科など)への紹介が望ましいとされています。
なお、この提言の中で、第Ⅱ・Ⅲ相臨床試験の結果よりてんかん発作頻度の減少が認められたmTOR阻害剤アフィニトール®(一般名 エベロリムス)がてんかん治療の選択肢の一つとして、紹介されています。国内におけるアフィニトール®の効能又は効果は、2019年8月より承認事項一部変更承認を取得して分散錠においては「結節性硬化症に伴う上衣下巨細胞性星細胞腫」から「結節性硬化症」となりました。 アフィニトール®の部分てんかん発作に対する有効性・安全性については、こちらをご覧ください。

表 結節性硬化症患者におけるてんかんの治療法(欧州専門家らによる提言)1)

治療法留意事項*1
抗てんかん薬

- 網膜毒性

- 現時点において、連続脳波モニタリング検査所見に基づく発作の予防にビガバトリンが有効であるとする臨床試験はない

- 治療効果が最大限に得られ、かつ治療による有害反応または毒性が最小限に抑えられる治療法を慎重に選択すること

● ビガバトリン*2

- ビガバトリン単剤療法は、1歳未満の結節性硬化症に伴うスパズム、または部分発作に対する一次治療として推奨される

- 若齢期、てんかん発作発症時または発作発症前に治療を開始すると、てんかんおよび神経発達に関する長期予後が改善される可能性がある

- 焦点性棘波が認められる場合は、発作発症前に治療を開始する場合もあり得る

● その他の抗てんかん薬

- ACTHは結節性硬化症に伴う点頭てんかんに有効であり、二次治療として用いられる

● 抗てんかん薬の併用

- 一次治療による効果が不十分な場合に適用する

mTOR阻害剤:エベロリムス

- 薬剤相互作用の可能性がある

- 欧州の一部の施設では使用経験が限られている

- 投与を中止した場合は発作が再発する可能性がある

- 結節性硬化症に伴う治療抵抗性のてんかん患者を対象とした第I・II相非盲検試験において、発作の発現および頻度はエベロリムスにより有意に低下した

- ランダム化二重盲検試験(EXIST-3試験)のコア期において、エベロリムス低トラフ群および高トラフ群では、プラセボ群と比較して発作の発現頻度が50%以上低下した患者の割合が有意に高く、また発作頻度減少率の中央値も有意に高かった。

- EXIST-3試験の継続期において、エベロリムス投与を継続した患者で効果が持続した

- エベロリムスは、2歳以上の結節性硬化症に伴う治療抵抗性部分発作(二次性全般化発作の有無は問わず)に対する併用療法として、2016年12月に欧州医薬品庁から承認を受けた

- エベロリムスの追加投与は、結節性硬化症に伴うてんかん発作が2種類の抗てんかん薬を投与しても抑制できない場合に考慮する

*本試験では、本剤の承認用法用量の範囲外のデータも含まれている。

外科手術- 手術を行った結節性硬化症患者の3分の1では発作が残存する

- 現在、結節性硬化症に伴う治療抵抗性てんかんに対してはあまり実施されていない

- 包括的な術前評価を行う必要がある

- 2種類の抗てんかん薬により十分な治療効果が得られなかった場合は、早期に術前評価を行うことが推奨される

- 早期の外科手術により、発作が消失する可能性が有意に上昇する

- 結節周縁部を含む切除により、発作消失の可能性が高くなる

- 多焦点性および両側性病変であっても、術前評価またはその後の切除術の実施を否定すべきでない

ケトン食

- 幼児期を過ぎた小児では継続が困難である

- 1件の試験において、患者の半数で発作の残存または再発が認められ、最終的にてんかん手術が必要となったことが報告されている

- SEGAの増大が認められる場合がある

- 外科手術が治療選択肢とならない乳幼児に対して考慮する

- 外科手術に適応のない患者、外科手術の効果が不十分だった患者、または多焦点性の発作を伴う患者に対して考慮する

- ビガバトリンによる効果が不十分だった場合に、他の抗てんかん薬による治療ではなく、ケトン食療法を実施することについては議論がある

- 動物モデルにおいてケトン食がmTOR活性を低下させることが示唆されており、これは結節性硬化症に伴うてんかん発作における作用機序の生物学的根拠を示している可能性がある

迷走神経刺激治療- 発作の消失が認められる患者はほとんどいない

- ケトン食療法が実施できない場合の第一選択肢となり得る、またはケトン食療法と併用して用いることができる

- 限られたデータではあるが、多くの患者で発作の発現頻度の低下が認められたことが示されている

カンナビノイド/カンナビジオール(本邦未承認)

- 使用経験が欧州に限られている

- 発作抑制の機序は不明である

- 多くが裏付けに乏しい事例報告である

- 臨床試験の結果がまだ報告されていない

*1 記載されている医薬品については最新の製品添付文書を参照
*2 本剤の効能又は効果は点頭てんかんである(サブリル®散分包500mgの添付文書より)。
また、てんかん発作の予防を目的とした投与については承認されていない

参考文献
1) Curatolo P, et al. Eur J Paediatr Neurol 2018; 22: 738-748
2) Curatolo P, et al. Eur J Paediatr Neurol 2012; 16: 582-586
3) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2018; 128: 1-16
4) Curatolo P, et al. Lancet 2008; 372: 657-668
5) Moavero R, et al. J Clin Med 2019; 8: 788

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