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MSに特徴的な画像所見を得るためのMRI撮像方法の均てん化について

千原 CVSとPRLは、多くの論文でMSの特徴的な画像所見と報告されています。今後は、改訂McDonaldの診断基準に採用されると思われ、統一した基準を作成する必要があると思われます。わが国の基幹病院ではMRI検査が実施可能であり、この優位性を利用して統一した画像のシークエンスをまとめる必要があるように思います。
竹内 MSではありませんが、前頭側頭型認知症ではMRIの撮像方法を統一しています。MSでも同様に基幹病院で実施し、ガイドラインに反映して、撮像方法の均てん化を目指すことが大事だと思います。将来的には血清バイオマーカーの登場も期待されていますが、現状、アクセスしやすいMRI検査が重要な検査となっています。

NEDA-3やNEDA-4の未達成を治療変更にどこまで反映すべきか

富沢 MS患者の多くは、脳萎縮や認知機能障害に対する恐怖心をもっています。実際に脳容積を測定して脳萎縮を検証することは困難ですが、例えば第三脳室幅は比較的簡便に追跡可能ですし、変化があった場合に患者に説明すると、患者から治療変更を希望されることもあります。
竹内 通常、治療変更は強力な治療へ移行することが多く、医師から患者に提示することになりますが、画像を見せることで患者が治療変更の必要性を感じる、という点は重要だと思います。

医師-患者コミュニケーションの最大の課題、優先的に解決したい課題について

フロアA MS患者が基幹病院で必ず会うのが主治医だと思います。ただし、患者は困っていることを診察室で医師に話しにくいのではないかと思います。採血中に検査技師が一声かけたり、看護師が廊下ですれ違う時に挨拶だけでなく病状を尋ねたりといった、ちょっとした会話が生まれるような雰囲気づくりが大事だと思います。そのような会話の中で得られた情報を共有するシステムをつくり、看護外来につなげることが必要かもしれません。
竹内 医師以外の医療者が協力することで、患者のQOL維持・向上に寄与できることがあると思います。
藤井 診察室以外のところで患者が話す内容には、たくさんのヒントがあると思います。医療者はたくさんの網を張って、その網に何か引っかかるものがあれば、しっかり汲み取る体制を準備しておくことが必要でしょう。患者が「話したいな」と思えるような環境基盤・心理基盤をつくるよう心掛ける。患者が治療や病気に対して諦めではなく、共に生きていくためのコミュニケーションを取りたくなるような励ましや承認を伝えることが必要かもしれません。
竹内 医師以外の医療者も含めて、患者の意見を集約できるようなシステムを外来で構築することが大切ですよね。また、医療者には、患者からの意見を吸い上げるための心の余裕も必要ではないでしょうか。

外来で「日常生活の援助」が可能となる体制づくりについて

藤原 日本には難病看護師という資格があります。MS患者を専門医療機関に集約し、そこで難病看護師に活躍してもらう方法もあるのではないでしょうか。院内における看護師のローテーションも大事ですが、看護師の専門化も必要に思われます。
竹内 海外のようなMS専門看護師を日本で実現させるのは難しいと思いますが、難病の中でも、神経難病に特化した看護師を養成することが現実的ではないかと思います。
フロアA パーキンソン病(PD)では、PDのケアに関する高度な知識をもつPDナースがいます。MSは、まさに人生これからという若い世代で、経済的基盤もほぼない中で診断され治療が始まります。疾患や治療薬の影響を受けながら、日常生活/社会生活の構築を繰り返さなければいけない。MS患者の生活には、医療者が関与する必要があります。このような慢性疾患の治療を受けながら生活している患者を支えられるよう、外来看護への診療報酬を改定する必要があるのではないでしょうか。
竹内 学会からも、医療体制の改善については働きかけていく必要があると痛感しています。

病状進行を早期に捉えて、MS患者のQOL維持につなげるために求められる診療体制について

千原 MSを専門とする脳神経内科医と、一般の脳神経内科医とのコミュニケーションに関しては、紹介しやすい環境をつくることが大切と考えます。学会などで挨拶や相談をしておくと、専門医への紹介がしやすくなります。また、専門医は地域ごとに広く顔の見える関係を構築することが大事だと思います。
我々の病院には難病相談支援センターがあり、そこでは看護師やMSWがMS患者に、MSの疾患特徴や就労に関する情報を提供しています。看護師やMSWが専門的な領域を担うことは患者にメリットがあり、このような支援を積み重ねることが、よりよいコミュニケーションにつながると思います。
竹内 基本的には顔の見える関係が大事ですよね。MSが疑われる患者の紹介先がわからない場合は、日本神経免疫学会(本学会)のホームページ上で紹介している神経免疫診療専門医を参考にしてほしいと思います。
富沢 コミュニケーションにおいてコメディカルの関与は重要です。我々の施設では神経免疫多職種カンファレンスを行っており、看護師とMSW、薬剤師も参加して、医療者間でのコミュニケーションをもつようにしています。やりがいや熱意だけで患者を支えるのは難しく、制度化する必要があると考えています。
竹内 MSは、筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病などと比べると、医療者の中でも疾患の理解が低いと感じることがあります。MSは若年層に好発し、日常生活/社会生活への影響が大きい疾患です。医療者の理解を深め、患者に適切に情報提供できるようにすることも重要です。
藤井 看護師が就労支援などで成功体験を積むと、意欲的に取り組むきっかけになることもあります。やはり、医療者も支援制度を広く知り、患者に伝えることが必要です。紹介についても自分の活動している地域で顔の見えるコミュニケーションをとることが優先されますし、まずはメールなどで相談することからスタートしてもいいと思います。
竹内 場所によっては、患者がMSセンターのような施設へのアクセスが難しいことがあります。診療体制の課題としてどのようなことが考えられますか。
藤原 患者が専門施設へのアクセスが難しい場所に住んでいるのであれば、診断時や治療変更時には専門医を受診し、普段の診療は地域の施設に担ってもらう、という協力体制が望ましいと思います。本学会では、コンサルテーションのサービスもありますので、神経治療学会などで公開している治験情報も併せて、ぜひ利用していただきたいです。
フロアB 脳神経内科が専門ではない一般病院では、公認心理士による外来看護師へのコミュニケーション教育を活用することで解決できることもあるように思います。実際、認知症では心理士の役割が重要になっています。
竹内 本日は、さまざまな見地から患者のQOLやコミュニケーションの重要性について理解を深めることができたように思われます。患者さんの未来のために、先生方の明日からの診療に役立てていただければ幸いです。

ご所属、ご講演内容については2024年10月作成時点のものです