

MS診療を支える多職種の連携
MSは慢性疾患で長期的な治療が必要となる。若年層に好発するため、人生のさまざまなイベントが起こるタイミングでの診断・治療となる。MSは患者のQOLに大きな影響を及ぼし、QOLの促進や阻害に関与する因子は多種多様である。数値化できる因子もあれば、数値化できない因子もあり、QOLの維持・向上には、医療者が患者の話を丁寧に聴き、解決につなげることが求められる。解決には、医師だけでなく看護師や理学療法士、作業療法士、臨床心理士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)など多職種の支えが必要である。
看護師に求められる役割
一般に看護師に求められる役割は、医師の診療支援・補助(診察、処置など)、治療薬の導入時や投与中の管理だけでなく、日常生活の援助が非常に大きな役割として挙げられる。また、MSの診療においては、患者のQOLの維持・向上に向けた積極的な介入が望ましいと考えられる。
看護師にはMSに関する幅広い知識が求められる。専門的な知識をもって取り組むことも非常に重要である。ただし、わが国では看護師は数年ごとにローテーションがあり、専門的な知識を身につけても活用されなくなる。ほかにも外来看護が評価されにくいという課題もある。医療法施行規則における外来看護職の配置基準は、「患者30名につき看護職1名」となっており、昭和23年(1948年)から変わっておらず、きめ細かい看護を実施するには、適切な人員の配置が必要と考える。現在では、疾病の構造変化や高齢化などによる課題を解決するために、外来看護に在宅療養指導管理料が設定されており、MSにおいては自己注射の場合に算定できる。看護師は日常診療の補助業務が主となり、主体的に外来でMS患者の日常生活を援助しにくい環境といえる。外来での「日常生活の援助」も可能な体制づくりや、外来看護職の配置基準、在宅療養指導管理料の改定が望まれる。
MS専門看護師により実現できること
海外ではMS専門看護師が多数活躍しており、MS患者やその家族をサポートする役割を担っている。MS専門看護師は、MS患者に総合的なケアを提供し、患者自身の状態や治療の選択肢について理解を深めるのに役立つアドバイスや精神的なサポートを提供することはもちろん脳神経内科医のサポートや、一般開業医や看護師、MSWなどに対してMSの知識を底上げすることが期待されている。
数年前に行われたMS International Federationによる調査では、84カ国中59カ国にMS専門看護師がいる一方、約30%の国ではまだMS専門看護師がおらず、日本はこの中の1つとなっている1)。
英国では、MS患者が最初に会う医療者はMS専門看護師である。MS専門看護師は、専門的なトレーニングを定期的に受け、最新の医療を理解し、患者に提供する役割を担う。カナダの臨床試験では、非専門医の診療にMS専門看護師の介入を追加した場合、追加しなかった場合に比べ、患者のQOLと満足度は変わらなかったものの、うつ病(図1)や不安(図2)に改善がみられた2)。
1)Atlas of MS 3rd edition PART 2: Clinical management of multiple sclerosis around the world MSIF, April 2021, p32.
(https://www.msif.org/wp-content/uploads/2021/05/Atlas-3rd-Edition-clinical-management-report-EN-5-5-21.pdf)(2024年10月閲覧)
2)Smyth P, et al. BMC Neurol. 2022;22(1):275.

ご所属、ご講演内容については2024年10月作成時点のものです