

MS患者と医師のコミュニケーション
患者と医師が疾患に関する理解を共有することは、診療において重要である。患者と医師のコミュニケーションにおいては、言語性・非言語性コミュニケーションがあり、物理的・言語的・心理的・社会的といった多様なコミュニケーションノイズがあることを理解した診療が望ましい。
MSでは、現在まで複数の治療薬が登場し、患者ごとに適切な時期に適切な治療薬を使用することで、患者予後は大きく改善しつつある。一方で、現状のMSは、一般に根治が見込めず長期間の治療が必要な慢性疾患でもあり、患者は疾患と共にさまざまなライフイベントを経験しながら生きていく。患者の長期予後にも影響するPIRAの早期発見は重要な課題であり、円滑なコミュニケーションは貴重な一助となりうる。
MSを含む慢性疾患では、医師と患者の良好なコミュニケーションが患者アドヒアランスやセルフマネジメント力を向上させ、治療効果の改善やQOLの向上、Well-beingの実現につながる重要な要素となる。
患者が医師に伝えたいこと
MS患者と神経内科医に実施したアンケート結果によると、MS患者は治療による副作用や安全性をより重要と考えており、医師は障害進行や再発など疾患の活動性をより重要視していた1,2)。医師は患者とのギャップを埋めるよう、情報を共有することが望ましい。
2019年に実施したMS患者へのアンケート結果3)によると、回答者の約3/4が社会生活、就労、メンタルヘルスにネガティブな影響があると回答していた。また、MSは若年層に多いことから、ファミリープランニングへの不安という回答も多かった。
医療者はこのようなアンケート結果を理解し、多くの患者が抱える疑問、不安、アンメットニーズについて知り、コミュニケーションを主導する必要がある。
看護師への期待
前述したMS患者アンケート調査では、患者はメンタルヘルスや経済的困難などについては、医師よりも看護師に、より多くの情報を伝えていた(図1)3)。医師だけでなく、看護師などコメディカルが関与することも重要と考える。
共有意思決定(SDM)とコミュニケーション
近年、改めて注目されているSDMは、医療者と患者が協働で重要な意思決定や治療に積極的に関わる過程である。SDMは、良好なコミュニケーションという土台があって、円滑に活用できる。
患者のWell-beingの実現を目指したコミュニケーションでは、患者と医療者が協働し互いのコミュニケーション能力を磨く必要がある。患者側はヘルスリテラシーの向上を目標とし、最終的には自身で考え納得して意思決定し、行動に移すことが望まれる。患者のセルフマネジメントにつながるコミュニケーションを通したリテラシーの向上を、医師がしっかり支援する必要があるであろう。
良好なSDMを実現するためにも、医療者と患者双方の「聴く力」「話す力」が求められている。患者と医療者がより近い認識をもって同じ目標へと歩むことが理想であり、その達成のために医療者は決して諦めずに粘り強く対話を継続することが重要である。
1)Tintoré M, et al. Patient Prefer Adherence. 2016;11:33-45.
2)Tatlock S, et al. Patient. 2023;16(4):345-357.
3)Florio-Smith J, et al. Mult Scler Relat Disord. 2023;75:104757.

ご所属、ご講演内容については2024年10月作成時点のものです