多発性硬化症(MS)の疾患進行と再発に関するエキスパートオピニオン

Scalfari A. Mult Scler. 2021; 27(7): 1002-1004.
Cross AH and Naismith RT. Mult Scler. 2021; 27(7): 1004-1005.
Schmierer K and Giovannoni G. Mult Scler. 2021; 27(7): 1006-1007.

2021年4月、Multiple Sclerosis Journalにおいて「MSは、すべての症例で一次進行性疾患であり、一部の患者に再発がオーバーラップする」という仮説に対するエキスパートオピニオンが公開された。

 

賛成(Scalfari A. Mult Scler. 2021; 27(7): 1002-1004.):

Scalfari氏の指摘によると、再発寛解型MS(RRMS)、二次性進行型MS(SPMS)、一次性進行型MS(PPMS)の病型分類は臨床試験でリクルートされる患者の均質性を高めることに役立つものの、生物学的な意義はそれほど大きくない。たとえば、再発と障害進行を誘引する病理学的メカニズムは密接に関連しており、臨床症状とは無関係に病初期から同時に発生することが知られている。また、PPMSとSPMSは、炎症細胞浸潤、軸索変性、皮質脱髄などの病理学的特徴が類似している1)。さらに進行型MSでは再発寛解期の有無にかかわらず、その進行速度や進行開始年齢が非常に似通っていることから、実はPPMSに先立って無症候性の再発寛解期が存在しているのではないかとも指摘している。逆に、再発寛解期では早期から再発に依存しない障害進行(PIRA)が観察されることを挙げ、早期ステージに潜む進行性経過の臨床的な証拠であると述べた。

 

反対(Cross AH and Naismith RT. Mult Scler. 2021; 27(7): 1004-1005.):

Cross氏とNaismith氏は、benign MSの臨床例の存在を挙げ、すべてのMSが一次進行性疾患とするならば、benign MS患者はまれにしか存在しないと推察されるが、実際にはMS患者の20%程度でbenign MSの存在を認めることを示した2)。また、benign MS患者では進行型MSで検出される灰白質萎縮3)、軸索ダメージ4)、皮質病変の増加5)といった画像評価において、進行性疾患としての所見が認められないことを指摘した。障害進行を来す病態は再発型MSの初期から存在する可能性はあるが、“すべてのMSが再発のオーバーラップする一次進行性疾患である”という点については、多くの疫学・画像研究によっても支持されてはいないとした。

 

解説(Schmierer K and Giovannoni G. Mult Scler. 2021; 27(7): 1006-1007.):

Schmierer氏とGiovannoni氏による解説では、Scalfari氏は進行型MSと再発型MSの類似性を強調しており、再発型MS患者であっても、再発とは無関係に進行するPIRAが観察されたという結果から、MSが発症時から一貫して一次進行性疾患であるという仮説を支持したと述べた。一方、Cross氏らはbenign MS患者の存在を示し、すべてのMSが一次進行性疾患である、という概念を否定したと述べた。
今回の議論においてSchmierer氏らは、MSは“すべての症例で”進行性経過を示すわけではないとしてCross氏らの主張に同意した。ただし、実臨床ではbenign MSをタイムリーに予測し治療決定に役立てることが重要であるが、現状でそれは難しい。家族・キャリアプランを立てる重要な時期にbenign MSかどうかを判定し、個別患者ごとのリスクに応じた疾患修飾療法を行うためには、さらなる研究が必要であると指摘した。

1)Lassmann H, et al. Nat Rev Neurol. 2012; 8(11): 647-656.
2)Roxburgh RHSR, et al. Neurology. 2005; 64(7): 1144-1151.
3)Fisniku LK, et al. Ann Neurol. 2008; 64(3): 247-254.
4)Benedetti B, et al. Mult Scler. 2009; 15(7): 789-794.
5)Calabrese M, et al. Mult Scler. 2009; 15(1): 36-41.