多発性硬化症の臨床症状
監修:東京女子医科大学 脳神経内科 特命担当教授 清水 優子 先生
- 健康上の問題による欠勤率
- 健康上の問題による就業中における生産性の低下率
- 総労働損失率
MSの臨床症状は、感覚障害、運動耐容能低下、視力不安定・喪失、疲労など多岐にわたる
多発性硬化症(MS)は空間的多発を特徴とします。臨床症状は、痛みなどの感覚障害、運動耐容能低下、視力不安定・喪失、疲労など多岐にわたり(図1)、中枢神経のどこに障害が生じるかによって症状のあらわれ方は異なります1)。
視神経障害による症状2)
MSの視神経障害として球後視神経炎がみられます。視力低下や視野狭窄が生じ、特に視野の中心部が見えにくくなる中心暗点が特徴的です。視力障害は片側性に生じ、数日の経過で進行することが多くあります。発症から1ヵ月以内に回復してくることが多いですが、後遺症として重度の視力障害を残すこともあります。
脳幹・小脳の障害による症状2)
脳幹・小脳症状としては、複視、動揺視、眼振、三叉神経痛、顔面神経麻痺、めまい、構音障害、嚥下障害、小脳性運動失調など様々なものがみられます。
脊髄障害による症状2)
脊髄障害は左右非対称性に生じ、不完全性であることが多く、通常、数時間~数日かけて四肢の運動障害や痙縮、四肢の異常感覚や感覚低下、レベルをもった体幹の感覚障害、膀胱直腸障害などを呈します。錐体路障害により四肢腱反射亢進や病的反射出現、腹壁反射消失がみられることも多くあります。また、男女とも性機能障害をきたすことがあります。
認知機能障害・精神症状2)
認知機能障害や精神症状を認めることが多くあります。認知機能障害は早期から晩期にかけて43~70%の症例で認められ、主に注意障害、情報処理機能低下、遂行機能障害、長期記憶障害がみられます。精神症状としては抑うつ症状が最も多くみられ、生涯有病率は50~59%といわれています。
図1:MSの症状1)

1) Giovannoni G et al:Mult Scler Relat Disord 9:S5-S48, 2016
著者には、過去にノバルティスがコンサルティング料、研究助成金などを支払った者が含まれています。
【Reference】
1)Giovannoni G et al:Mult Scler Relat Disord 9:S5-S48, 2016
著者には、過去にノバルティスがコンサルティング料、研究助成金などを支払った者が含まれています。
2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p58 2017年
3)Gross HJ et al:Neuropsychiatr Dis Treat. 13:1349-1357, 2017
4)Barin L et al:Mult Scler Relat Disord. 25:112-121, 2018
著者には、過去にノバルティスが講演料、旅費、コンサルタント料などを支払った者が含まれています。
二次性進行型MS患者は再発寛解型MS患者よりも疾病負荷が大きい傾向がある
英国で行われた患者アンケート調査において、再発寛解型MS患者と二次性進行型MS患者の病型別の疾病負荷が検討されました。患者が自覚していた身体症状は疲労、平衡困難/歩行困難など多種多様で、二次性進行型MS患者のほうが、再発寛解型MS患者と比較し疾病負荷が大きい傾向にありました(図2)。患者報告に基づく重症度の割合は、二次性進行型MSのほうが重度でした。
また、MS患者は、就労や労働生産性に対しても影響を受けることが報告されています。二次性進行型MS患者のほうが、再発寛解型MS患者と比較し、労働生産性や日常生活に対して大きな影響を受ける傾向がありました(図3)。
図2:再発寛解型MSおよび二次性進行型MS患者における身体症状保持者の割合(海外データ)

【対象】US National Health and Wellness Survey 2012/2013のMS患者810例のうち、再発寛解型MS患者458例、二次性進行型MS患者105例
【方法】対象患者の自己申告に基づくMS関連症状を集計した。
【検定方法】カテゴリー変数(疾患重症度、症状)に対するカイ二乗検定を用い検定した。
3)Gross HJ et al:Neuropsychiatr Dis Treat 13:1349-1357, 2017より作図
図3:MSが労働生産性および日常生活へ及ぼす影響(海外データ)

※1:n=173 ※2:n=167 ※3:n=20 ※4:n=19
【対象】US National Health and Wellness Survey 2012/2013のMS患者810例のうち、再発寛解型MS患者458例、二次性進行型MS患者105例
【方法】対象患者の就労状況を検討した。また、Work Productivity and Activity Impairment-General Health(WPAI-GH)質問票を用いて、MSが労働生産性や日常生活へ及ぼす影響を評価した。なお、就業者については以下の3つの指標を検討した。
【検定方法】カテゴリー変数(雇用状況)に対するカイ二乗検定、及び連続変数(入院及び仕事、活動障害)に対する独立サンプルt検定を用い比較した。
3)Gross HJ et al:Neuropsychiatr Dis Treat 13:1349-1357, 2017より作図
また、スイスでは再発寛解型MS患者611人および進行型MS(一次性進行型MSおよび二次性進行型MS)患者244人を対象に調査が行われました4)。
再発寛解型MS患者で最も頻度の高い症状は、感覚異常(77.0%)、疲労(74.3%)、脱力感(54.9%)であり、進行型MSでは、歩行障害(90.6%)、平衡機能障害(84.0%)、疲労(83.2%)の順に割合が大きいという結果でした。(図4)
図4:再発寛解型MS患者及び進行型MS患者における身体症状保持者の割合(海外データ)

4) Barin L et al:Mult Scler Relat Disord 25:112-121, 2018より作図
著者には、過去にノバルティスが講演料、旅費、コンサルタント料などを支払った者が含まれています。
【Reference】
1)Giovannoni G et al:Mult Scler Relat Disord 9:S5-S48, 2016
著者には、過去にノバルティスがコンサルティング料、研究助成金などを支払った者が含まれています。
2)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p58 2017年
3)Gross HJ et al:Neuropsychiatr Dis Treat. 13:1349-1357, 2017
4)Barin L et al:Mult Scler Relat Disord. 25:112-121, 2018
著者には、過去にノバルティスが講演料、旅費、コンサルタント料などを支払った者が含まれています。