多発性硬化症の治療概念
監修:東京女子医科大学 脳神経内科 特命担当教授 清水 優子 先生
- 再発がない
- 症状の進行がない
- MRI病変の新規出現がない
- MSに関連した脳萎縮の進行が認められない
多発性硬化症の疾患活動性を評価するための概念として「NEDA(no evidence of disease activity)」が提唱されており、以下の4条件を満たす状態を「NEDA-4」と呼びます(図1)1-3)。
近年、NEDAの達成率はMSの臨床試験において、疾患修飾薬の治療反応性を評価する指標としても用いられています3)。
またNEDA-4に、5) 脳脊髄液中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)が正常値である、という条件を追加したNEDA-5も提唱されています4)。
図1:MS治療におけるNEDA-42)

2)Ziemssen T et al:BMC Neurol 16:129, 2016より改変
ノバルティスは本研究に資金提供を行いました。著者には、過去にノバルティスが研究助成金、講演料を支払った者、過去にアドバイザリーボードに参加した者が含まれています。本論文の著者のうち、1名はノバルティスの社員です。
【Reference】
1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p142-143 2017年
2)Ziemssen T et al:BMC Neurol 16:129, 2016
ノバルティスは本研究に資金提供を行いました。著者には、過去にノバルティスが研究助成金、講演料を支払った者、過去にアドバイザリーボードに参加した者が含まれています。本論文の著者のうち、1名はノバルティスの社員です。
3)Havrdova E et al:Mult Scler J Exp Transl Clin 4(1):1-11, 2018
著者には、過去にノバルティスが謝礼金、研究助成金、コンサルタント料などを支払った者、過去にアドバイザリーボードに参加した者が含まれています。
4)Giovannoni, G. Curr Opin Neurol 31(3): 233-243, 2018
多発性硬化症(MS)の治療戦略として、治療薬を新規に導入する場合、長期の安全性と有効性の観点からベースライン薬で開始することが基本です1)。そのうえで治療効果を判定し、無効もしくは不十分と判断された場合にはベースライン薬の中で切り替える、もしくは、より高い治療効果が期待できる第二選択薬、第三選択薬に段階的に切り替えます(escalation therapy)1)。
一方、早期から疾患活動性の高い患者にescalation therapyを採用した場合、障害の進行を抑制できないばかりか有効な治療時期を逸してしまう危険があるため、疾患活動性の高い患者に対しては治療効果の高い第二、第三選択薬から開始する場合があります1)(図2:Early top-down)1)。
Rapid escalationやEarly top-downで治療された患者は、従来のように段階的に治療をされた患者よりも悪化が抑制される傾向があり、最初に選択した治療薬でNEDAを達成する確率が高くなることが示唆されています(図2)2)。
図2:治療目標と治療アプローチ2)

※なお、多発性硬化症・視神経脊髄炎ガイドライン2017の追加情報(2018年改訂版)において、シポニモドフマル酸塩およびオファツムマブの位置づけについては記載されていない。
2)Giovannoni, G. Curr Opin Neurol 31(3): 233-243. 2018より改変
【Reference】
1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p163-164 2017年
2)Giovannoni, G. Curr Opin Neurol 31(3): 233-243, 2018
「多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017」では、「多発性硬化症(multiplesclerosis)に特徴的なMRI画像を有するclinicallyisolated syndrome(CIS)患者では、疾患修飾薬(disease-modifyingdrug: DMD)を考感してもよい(エビデンスレベル2D+)」とされています。しかしながら、本邦においてはCISに対して疾患修飾薬の保険適用はありません1)。
「再発寛解期においては早期にDMDを開始することを推奨する(エビデンスレベル1B+)」とされています1)。再発寛解型MSにおけるIFNr3の臨床試験の7~15年後の追跡調査において、実薬で開始された群がプラセボ群と比較して障害度の進行が抑制されていることが示されています1)。この差はIFNr3-1bにおける16年後の追跡調査では確認されませんでしたが、同薬剤の21年後の調査では実薬で開始された群のMS関連による死亡率がプラセボ群と比べて有意に低いことが報告されています1)。
発症から1年未満に治療を開始した患者のほうが、発症から3年以上経過後に治療を開始した患者より、EDSS4.0へ移行するリスクが低かったという報告や2)、最初から実薬にて治療開始した群のほうが、プラセボから実薬へ24か月後に切り替えた群よりも障害進行が抑制され、年間再発率、新規MRI病変数が少なかったという報告もあります3)。
「二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS)」では、特に再発や画像上の活動性がみられる患者においてはDMDを開始してもよい(エビデンスレベル28+)」とされています1)。ヨーロッパにおける臨床試験ではIFNr3-1bが障害度の進行を抑制することが示されています4)が、北米を含む別の臨床試験では進行抑制は確認されませんでした4-7)。ただし、試験開始前の2年間に再発を経験した患者群においては障害進行抑制効果がみられており5)、SPMSにおいても再発と関連した障害進行を抑制することが示唆されました。本邦では、2020年にシポニモドフマル酸は、二次性進行型多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制に対する治療薬として承認されています。
【Reference】
1)日本神経学会 監修 『多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017』 医学書院 p148-149 2017年
2)Kavaliunas A, et al. Mull Seier J 23(9): 1233-1240, 2017
3)Ghezzi A,et al. Neural Ther 8(2): 461-475,2 019
4)European study group on intergeron beta-1b in secondary progressive MS. Lancet 352(9139): 1491-1497,1 998
5)Secondary Progressive Efficacy Clinical Trial of Recombinant Interferon-Beta-la in MS (SPECTRIMS) Study Group. Neurology 56(11): 1496-1504, 2001
6)Cohen JA, et al. Neurology 59(5): 679-687, 2002
7)The North American Study Group on Interferon beta-1b in Secondary Progressive MS. Neurology 63(10): 1788-1795,2 004