日本皮膚科学会 『結節性硬化症の診断基準および治療ガイドライン』

アフィニトール 結節性硬化症(TSC)

監修:大野耕策 先生(鳥取大学名誉教授)

日本皮膚科学会 『結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン』

結節性硬化症は、1835 年に顔面の血管線維腫として初めて紹介され、1935 年にすでに常染色体優性遺伝性疾患と報告されていました。その後50 年以上にわたってあらたな知見が得られない状況が続きましたが、1993 年にTSC2遺伝子が、1997年にTSC1遺伝子が相次いで原因遺伝子として同定され、2000年にはTSC1、TSC2の遺伝子産物であるハマルチン、ツベリンがPI3K-Akt-mTORの系に関与することが分かり、本症の解明は飛躍的に進みました。これらの変化を受けて、2001年、2002 年に厚生労働省科学研究費補助金・難治性疾患克服研究事業の神経皮膚症候群研究班から『結節性硬化症を含む母斑症の治療指針、ガイドライン』が提案され、2008 年に日本皮膚科学会より『結節性硬化症の診断基準及び治療ガイドライン』1)が発表されました。
いずれも1998年の第1回TSC Clinical Consensus Conferenceで批准されたいわゆるRoach(修正Gometz)の診断基準に準拠したものでした。
皮膚科医が結節性硬化症患者を診る際の指針とすべき診断手順(図1)、検査時期や検査方針、モニタリングの頻度、専門医への受診時期がまとめられています。

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2012年には第2回の結節性硬化症のConsensus Conferenceが開催され、第1回で批准された診断基準が改定され、それに準じた診療ガイドラインが発表されました2)3)。このような診断基準の改定やmTOR阻害剤の登場もあり、本邦でのガイドライン改訂も急務となりました。第2回結節性硬化症のConsensus Conferenceの新規ガイドラインは本邦の現状に適合しない点もあったため、ガイドライン改訂委員会では本邦の各分野の専門家を招集して、各学会の治療指針やガイドライン骨子を組み込み、作成が試みられました。その上で、問題点をクリニカルクエスチョンとしてあげ、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)Clinical guidelineに準じて、エビデンスに基づいた論文を参考としながら2018年に報告されました4)。改訂ガイドラインでは、新規診断基準(表1)や、前回ガイドラインから更新された結節性硬化症に伴う各症状の診療の指針がまとめられています。ガイドライン全文はこちらからみることができます。

表1 結節性硬化症の診断基準4)

A 遺伝子検査での診断基準
TSC1,TSC2遺伝子のいずれかに機能喪失変異があれば,TSC の確定診断に充分である.ただし,明らかに機能喪失が確定できる変異でなければ,この限りではない.また,遺伝子検査で原因遺伝子が見つからなくとも,結節性硬化症でないとは診断できない.

B.臨床診断の診断基準
大症状
 1.3 個以上の低色素斑(直径が 5mm 以上)
 2.顔面の 3 個以上の血管線維腫または前額部,頭部の結合織よりなる局面
 3.2 個以上の爪囲線維腫(ungual fibromas)
 4.シャグリンパッチ(shagreen patch/connective tissue nevus)
 5.多発性の網膜の過誤腫(multiple retinal nodular hamartomas)
 6. 大脳皮質の異型性(大脳皮質結節(cortical tube)・放射状大脳白質神経細胞移動線(cerebral white matter radial migration lines)を含める)
 7.脳室上衣下結節(subependymal nodule)
 8.脳室上衣下巨大細胞性星状細胞腫(subependymal giant cell astrocytoma)
 9.心の横紋筋腫(cardiac rhabdomyoma)
 10.リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis LAM)*1
 11.血管筋脂肪腫(angiomyolipoma)(2 個以上)*1

小症状
 1.散在性小白斑(confetti skin lesions)
 2.3個以上の歯エナメル質の多発性小腔(multiple,randomly distributed dental enamel pits)
 3.2 個以上の口腔内の線維腫(intraoral fibromas)
 4.網膜無色素斑(retinal achromic patch)
 5.多発性腎囊腫(multiple renal cyst)
 6.腎以外の過誤腫(nonrenal hamartoma)

*1 lymphangioleiomyomatosis と renal angiomyolipoma の両症状がある場合は Definitive TSC と診断するには他の症状を認める必要がある.
Definitive TSC:大症状 2 つ,または大症状 1 つと小症状 2 つ以上
Possible TSC:大症状 1 つ,または小症状 2 つ以上

参考文献
1) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2008; 118: 1667-1676
2) Northrup H, et al. Pediatr Neurol 2013; 49: 243-254
3) Krueger DA, et al. N Engl J Med 2013; 48: 255-265
4) 金田眞理, 他. 日皮会誌 2018; 128: 1-16

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