

MSにおけるPIRAの重要性
多発性硬化症(MS)の経過では早期は繰り返す炎症発作が前景に立つが、潜在的に進行する神経障害が蓄積し二次性進行型へと至る。MS治療では、繰り返す炎症発作と潜在的に進行する神経障害がターゲットとなる。再発に関係のない神経障害の進行(PIRA)は治療抵抗性であり、早期からの治療や多面的な病状評価が求められている。
画像所見
MRIはMSの診断に重要な役割を果たす。脳萎縮は進行型MSで多く認められ、脊髄萎縮は身体障害と相関し、尾状核、視床下部、視床の萎縮は早期からみられる。MSに特徴的な画像所見として、病変の中心に静脈が描出されるcentral vein sign(CVS)や皮質直下病変に加えて、磁化率強調画像(SWI)でみられるparamagnetic rim lesion(PRL)が挙げられる。ただし、MSでない症例でもCVSやPRLはみられるため、疾患特異的とは言えないが診断の補助としては有用であろう。
予後不良因子と障害進行
MSでは、予後不良因子を考慮した治療戦略が必要である。実臨床では、Expanded Disability Status Scale(EDSS)やTimed 25-Foot Walk(T25FW)、手指の巧緻性をみる9-Hole Peg Test(9HPT)、遂行機能をみるSymbol Digit Modalities Test(SDMT)などを組み合わせる。特に、認知機能をみるSDMTは、EDSSとは異なるパラメータとして重要である。質問紙を用いた患者評価、画像、髄液、血液の検査といった複数の検査を実施し、早期に障害進行を判定し治療介入することが必要になる。ただし、それら検査の必要性の周知や検査時間の確保が課題である。

新たなバイオマーカーの可能性
血清neurofilament light chain(sNfL)値はGd造影効果病変数と相関する2)。治療開始後は治療効果に応じて低下することから、MSの疾患活動性、治療反応性を反映する可能性が示唆される3)。
血清glial fibrillary acidic protein(sGFAP)値はPIRAを予測できる可能性がある。ベースラインでのsGFAP値およびsNfL値を測定し、それぞれのカットオフ値に基づきsGFAP値とsNfL値がともに高値、sGFAP値高値でsNfL値低値、sGFAP値低値でsNfL値高値、sGFAP値とsNfL値がともに低値の4群に分け、障害進行度を測定したところ、sGFAP値高値はsNfL値の高低にかかわらず障害進行がみられた(図1)4)。
また、一次性進行型多発性硬化症および二次性進行型多発性硬化症では、ベースラインのsGFAP値が高値であった5)。sGFAP値を四分位ごとにPIRAを示した患者割合を比較すると、最低四分位(第1四分位以下)に比べ最高四分位(第3四分位以上)はHR 1.72であった(図2)5)。
sNfLは炎症病態と治療反応性を、sGFAPは障害進行を予測できる可能性があるが、sGFAPはカットオフ値は規定されておらず、今後さらに解明が進むことが望まれる。

1)Berek K, et al. Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2021;8(4):e1005.
2)Kuhle J, et al. Neurology. 2019;92(10):e1007-e1015.
3)Benkert P, et al. Lancet Neurol. 2022;21(3):246-257.
4)Meier S, et al. JAMA Neurol. 2023;80(3):287-297.
5)Madill E, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2024;11(10):2719-2730.
ご所属、ご講演内容については2024年10月作成時点のものです